2016年6月23日に実施されたイギリス国民投票の結果、EU離脱派票が51.9%、EU残留派票は48.1%となり、僅差で離脱派が上回った。ただ、ロンドンやスコットランド、北アイルランド等ではEU残留派の方が上回っており、特に62%以上が残留を支持したスコットランドではイギリスからの独立をかけた投票を実施する機運が高まっている。また、56%が残留に票を投じた北アイルランドでも、アイルランドとの統一を問う投票を求める声が上がっている。このままイギリスはバラバラになってしまうのか。この問題について、イギリス国内ではどのように受け止められているのか、どのように報道されているのか、現地の反応をHowTravel現地在住ライターがリポートする。
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EU離脱の国内外交渉は続く
(現地在住ライター バックリー佳菜子)国民投票によるEU離脱が決定してから1ヵ月、離脱決定のショックは多少和らいできているように見受けられるものの、テリーザ・メイ首相の指揮の元、2年後のEU離脱に向けEU各国との個別交渉が次々と行われていく予定でイギリス国民は交渉の行方に神経をとがらせている。
またBBCで報道されているように離脱決定後1か月でイギリス経済が大きく落ち込んでいるデータが示され、中央銀行であるバンク・オブ・イングランドもEU離脱による国内経済の冷え込み緩和の低利率政策を打ち出す等、離脱による経済面での影響を心配する声も多い。
そんな中注目されているのがスコットランドの動きである。特にスコットランドでは残留派が多かったにも関わらずEU離脱が決まり、油田を有するなど経済的な余裕がありEU残留にメリットが多いため、スコットランド独自でEUに残留する方法を模索していると連日報道されている。現在の憲法および関連法律ではイギリス国内のそれぞれの国(スコットランドやウェールズ)が個別にイギリス全体のEU離脱を止めることはできないとされているが、スコットランド首相は2004年にEUに加盟したキプロスの例をあげ、特例的にスコットランドがEUに残留できるのではないかと考えているようだ。正式にイギリスがEUを離脱するまであと2年。この間にEU各国との交渉だけでなく、イギリス国内でもどのような交渉が行われるか注目が集まっている。
根底にある「イングランド中心政治」への積年の不満
(現地在住ライター 竹内奈緒美)
世界を驚かせたEU離脱を問う国民投票の結果から1ヶ月が経った。筆者が暮らす町ではそれに起因する事件やデモ等は発生しておらず、これまで通り穏やかな時間が流れているが、その一方、イギリスポンドの急落による大きな株価の変動、首相の辞任と新内閣の発足、大都市でのヘイトクライムの急増など、様々な関連ニュースが報じられているが、イギリスの分裂に関するものもその例外ではない。
スコットランドには、2014年イギリスからの独立を問う住民投票の結果、独立を断念した経緯がある。今回の国民投票の結果を受けて、ニコラ・スタージョン スコットランド首相は、「スコットランドのEU市場での立場を約束できないままEUからの離脱手続きを開始した場合、イギリスからの独立を問う2度目の住民投票を2017年に実施することもあり得る」としている。
またスコットランドと同様にEU残留派が勝利した北アイルランドでは、EUとの繋がりを守るため、アイルランドとの統一が叫ばれるようになった。それを受けて、EU離脱後もこれまで同様EU民としての恩恵を受け続けられるよう、アイルランドのパスポートを取得しようとする大きな動きがイギリス国内にあるようだ。
さらには、スコットランド独立問題に触発されたのか、国民投票結果と同様に離脱派が勝利したウェールズにおいてまでもイギリスから独立する動きが出てきた。最大の理由は、これまで蔑ろにされてきたウェールズの権利を自分たちの手に取り戻し、生活水準を向上させたいからだ。
このように国民投票の結果が引き金となり、スコットランド、北アイルランド、ウェールズが「イングランド中心政治」に対して抱いてきた不満や鬱憤が声高に叫ばれ、それぞれの力で解決しようと動き始めた。テレザ・メイ新首相は、イギリスの分裂を避けるべく各地方の首相と交渉を始めているが、根深い問題であるため、解決の糸口はまだ見えてきていない。