トルコ現地時間2016年7月15日夜に発生した、一部軍人によるクーデターは、民間人も含めて200人以上の犠牲者を出して幕を閉じた。軍の大部分がクーデターに賛同しなかったことや、民主的に選ばれたエルドアン大統領を民衆が支持していたことがクーデター失敗の理由として挙げられている。日本国内の報道だけを見ていると、一部将校の暴走が、すぐに鎮圧され、既にトルコ国内は沈静化しているかのように伝えられている。トルコ国内ではどのように受け止められ、どのように報道されているのか、現地の反応をHowTravel現地在住ライターがリポートする。

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クーデターは未遂で良かった!安定が一番!

(現地在住ライター 土本窓子

7月15日金曜から土曜にかけての夜中、イスタンブールとアンカラはまるで戦場のようだった。イスタンブールは、音声爆弾が使われたため、実害は思ったより少なかったもののF16戦闘機が爆音を響かせて飛び交い、爆撃音がし、あちらこちらから銃声がしていた。家の中にいても、窓に近づきすぎるなと言われ、何が起きているのかよくわからないまま、テレビとネットで錯綜する情報を集めながら、ワッツアップで情報交換をし続け、明け方まで眠れなかったという人がほとんどだった。起きてみるとなんだか拍子抜けするような平穏な朝だった。夜中にテレビで宣言された「外出禁止令」が有効なのか無効なのか、それとも、エルドアン大統領が明け方にテレビで呼びかけた「広場に出よう」が有効なのか?それすらはっきりとわからない状況だったが、街は、いつもとかわらない週末の朝の雰囲気であった。通りは、仕事に行く人や朝ご飯のパンを買いに出た子供たちが普通に行きかっていた。
 
エルドアン大統領は、テレビで呼びかけただけでなく、人々の携帯電話にもメッセージを送っていた。「裏切り者たちに思い知らせるためにも広場に出て国民の連帯を示そう!」といった文言のショートメッセージが携帯電話に直接送られてきていた。それにこたえる形で多くの人々が国旗を持って外に出て、「自分たちは、恐れていない。現政権を支持する」という気持ちを表明していた。

トルコの人々に今回のクーデター失敗に関して聞いてみた。最も多かったのは、「トルコ国民を守る存在である、軍と警察が対立する構図は非常に悲しい」といった内容のものだった。「自分たちは、国を守るために外的勢力と戦うのに命は惜しまない。しかし、今回起きた事件で、誰が誰と戦おうとしたのか、どこに向かおうとしたのか、理解できない」、「今回の事件はクーデターとは言えない。制圧されて本当によかった」おそらくほとんどの一般市民が同様に感じていたと思う。

このクーデターは、軍にも市民にも、野党勢力にも、だれにも支持されなかったから失敗したと言われているように、20世紀後半に何回もクーデターを経験したトルコの人々にとって、今、何よりも大切なものは安定した生活なのである。エルドアン政権は長期政権で、非常に安定している。不透明な改革なるものよりも、日々の生活を守りたい、という思いを人々は明らかにしている。

今回、外出禁止ではなく、外に出ることを支援するために、イスタンブールとアンカラでは公共交通機関が無料になっている。最初は、一週間の予定であったところ、さらに延長され、今月いっぱいとのこと。費用は、与党、野党が持ち回りで負担すると表明されている。野党も含め、超党派で今回の件に対応しているのは、やはり、人々が安定を求めているのがわかっているからであろう。