韓国の大田地裁は1月26日、長崎県対馬市の観音寺から韓国人窃盗団によって盗まれて韓国に渡った仏像の所有権が、韓国の浮石寺(プソクサ)にあるとの判決を出した。判決には、元々この仏像が韓国のもので、倭寇などによる略奪や盗難で日本に渡ったとみられることが背景にある。
この問題で興味深いのは、韓国政府がこの判決を不服として控訴した点だ。これまで度々あった、官民挙げての日本総叩きの図式ではない。
今回の判決について、韓国国内ではどのように報道され、どのように受け止められたのか。韓国現地在住ライターがリポートする。
仏像問題は冷静に対処しなくてはならない理由がある
(現地在住ライター キム・ヒョンジ)対馬から盗まれた仏像に関しての韓国内の報道は、従来の日本絡みのものと比べてとても冷静だ。この仏像の返還差し止め請求の訴訟がされた当初は、左派系の新聞社さえも、返還差し止めは難しいだろうと報道していた。
その後判決が出ても、左派系の新聞ですら、淡々と事実だけを伝えている。保守系の新聞社では、この判決に否定的な専門家の意見すらも伝えている状況だ。以前であれば、原告の求めた通りの韓国有利となる判決が下されたので、鬼の首を取ったかの如く報道されていただろう。
また韓国政府は、ユネスコで定められた文化財不法輸出入等禁止条約に則り、日本に返還すべきと主張をしており、判決を不服として上告をしている。これも、以前であれば政府への批判が起きていたであろうと想像できる。しかし、今のところ韓国政府への批判はほぼ無い。
市民の反応だが、「もともと韓国の物なのだから返還しなくて良い」と言う意見もあるにはある。ただ、大多数の市民は、多くの専門家たちが言及しているように、「一旦は日本に返還して、正規に韓国への返還を求めるべきだ」との意見に賛同しているようだ。
対日本に対して珍しく理性的な反応に見えるが、ここには韓国特有の事情も関係している。実は、略奪されたとされる韓国文化財は日本にだけでなく、フランスなど複数の国にある。フランスにある韓国の文化財は、略奪されたことが明白な事から、返還交渉が行われている最中だ。このように、今回の仏像の件以降も、韓国文化財を取り戻す働きを続ける必要がある。
この状況下で、「かつて略奪された物であれば、例え非合法な手段でも取り返して良い」という前例を作ってしまうと、ユネスコで定められた文化財不法輸出入等禁止条約を無視する事にもなりかねず、今後の返還交渉にも影響を及ぼす。今回の対馬の仏像事案は、反日感情だけで推し進める事が出来ないのである。
※ユネスコ文化財不法輸出入等禁止条約とは、締約国から盗まれた美術品や文化財の輸入を禁じ、返還・回復を定めた条約