各国が領有権を主張する南シナ海に、中国が実行支配を強めるために人工島を建設する等の行為が国際法に違反しているとして、フィリピンがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した裁判は、中国の主張に法的根拠がないとの判断で幕を閉じた。日本国内では鬼の首を取ったかのような盛り上がりで、国際社会が協調して中国圧力を加えていくべきとの論調の報道が目立つ。一方、中国政府は今回の判決を「紙屑」と言い放ち、国の意向を反映する報道機関も足並みを揃えて黙殺する方針を示しているが、中国国民が今回の判決をどのように受け止めているかは日本に伝わってこない。中国在住のHowTravel現地ライターが現地の反応をリポートする。

※この記事の内容は現地在住者自身の経験と知見に基づくものであり、HowTravelの主張を代弁するものではありません

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「尖閣諸島」時とはまったく異なる現地での注目度

(現地在住ライター 高橋亮

私は今河南省の地方都市で生活をしているのだが、今のところ南シナ海問題についてはまったく話題に上ることはない。仕事柄現地のさまざまな年齢層の中国人と会話をする機会があるのだが、現地民の興味はかなり薄いという印象をうける。

ちょうど判決が出た当時、現地にあるマクドナルドの外で「アメリカ資本の企業の不買運動をしよう!」という横断幕を掲げる学生を見かけたが、肝心の横断幕を掲げる学生はスマホをいじりながらやる気なさそうにしているところからすると、政府関係機関がアルバイトとして学生を雇っているだけなのだろう。

筆者は2012年尖閣諸島に関する問題が発生した時にも大陸で仕事をしていたのだが、その時は一般市民であっても尖閣諸島(釣魚島)関連のニュースに注目し、普段の会話においても話題に上ることが多かった。今回の南シナ海判決については、その時と比較にならないほど現地民の関心は低いのが印象的である。尖閣諸島の場合には「抗日」という分かりやすいイメージがあったため、現地民も感情が動きやすかったのだが、今回はフィリピンやアメリカという対象であるため、中国人としてもイメージが湧きづらく、結果として現在のような冷めた反応になっているものと分析される。

もちろん日本と同様にインターネット上ではかなり過激な反応をする愛国者もいるが、一般市民の反応は思った以上に薄いというのが今回の南シナ海判決の印象である。