ブラジルは古くから日系人の多い国であり、近年はブラジル日系人労働者が数多く日本で働いている。そんな彼らと日本で出会い、ブラジルに移住することになったという人や、2億人を抱えるブラジル市場獲得のためつくられたブラジル支社に転勤する人等、ブラジルに移住する人は様々だ。いざブラジルに移住するとなると、言語、ビザ、仕事、文化、家族・子供、お金まで、考えることは盛りだくさんだ。そんなハードルを乗り越えてブラジルに移住した現地在住日本人に、移住を決めた理由と、移住してみて実際どうだったかを聞いてみた。
日系人と付き合っていくこと
(現地在住ライター 増成かおり)20年前、私は冬の日本を後にして夏のブラジルへ向かった。そこで日系ブラジル人男性と結婚し、サンパウロに住み着いた。まだインターネットがなかったその頃、海外移住準備の情報収集ツールは電話と手紙だった。今では考えられないほど時間もお金もかかったが、それは当時当たり前のことだった。
そうしてやって来たこの国で最初苦労したのは、意外かもしれないが日系人との付き合いだった。彼らは昔の日本を持ち続ける一方でブラジルの流儀を取り入れて生活していて、彼らの中の「日本」と私の知る「日本」は異なるものだった。
彼らは親族との絆を大切にし、日本の血統と伝統を重んじる。しかし、初対面の人でも「あんた」と呼び、刺身とブラジルのニンニクご飯とフェイジョンという豆料理を同じ皿に盛って食べ、味噌汁をフォークでかき回し、パーティ好きで、時間にルーズだ。
ハグやキスの挨拶にも戸惑った。たいてい互いに頬を合わせてチュッと口で音を立てるだけだが、中には唇を頬に押し当てる人もいる。さらに、背中に腕をまわしてハグをすることもある。これを、特に日本人顔の夫の親戚とするのは正直今でも苦手だ。
しかし、いつも笑顔で私を迎える彼らを拒否することはできない。こうしないと挨拶したことにはならないし、何より私は「嫁」なのだから。