国際化が進み、衣食住は欧米式への同質化が進む一方で、冠婚葬祭は未だに宗教・文化の背景を色濃く残している。日本に閉じて考えても、宗派等によって葬式の方法は全くことなり、葬式代から作法まで多種多様だ。これが海外の葬式ともなると、日本と全く異なることは想像に難くない。海外現地在住ライターが、自国の葬式事情をリポートする。
目次
【ブラジル】葬式も自由に
(現地在住ライター 増成かおり)ブラジルの葬儀では、「まあ!お元気?」と派手なワンピースの人に笑顔でキスされることがある。この国にも葬儀には黒い服で出席するという習慣はあるが、同時にどんなことも省略してしまう習慣もあるのだ。ジーンズにサンダルで参列しても誰も文句は言わない。ここは自由すぎる国なのだ。
遺体は医師が死亡報告書を発行後、24時間待ってから埋葬するのがこの国の法律で、宗教的にも24時間はまだ魂が遺体に留まっているとされている。ところが私はある日曜の夕方、その朝亡くなったばかりという人の葬儀に参列したことがある。24時間も待っていては月曜になって仕事がある人が参列できないという理由からだった。
人は亡くなると棺に収められ、葬儀場に安置される。遺族はその小さな葬儀室で訪れる人々からキスとハグと慰めの言葉を受けながら通夜を過ごすのだ。そして亡くなってから丸一日経って葬儀が始まる。キリスト教の国ブラジルでは、十字架が掲げられた葬儀場で小さなミサを行い棺は埋葬される。しかしここには自由が溢れている。
私が参列したある日系女性の葬儀でのことだ。仏教徒だった彼女のために、棺のそばの小さなテーブルに線香が立てられていた。しかし葬儀にやって来たのは僧侶ではなく神父だった。キリスト教で葬儀が行われたのは、他の参列者がみんなクリスチャンだからという理由からで、故人の信教は気にしないらしい。式の後、棺は墓地に運ばれて墓穴に埋められ花が供えられた。再び神父が短く祈りを捧げて全ては終わった。
そう思ったら、最後になって仏教が顔を出した。参列者に火がついた線香が配られたのだ。受け取った人が被せられた土に線香を挿して手を合わせた。キリスト教と仏教の融合だ。
ブラジルには仏教寺院がいくつもあるし火葬も可能だが、私は自分の葬儀はできれば日本でしたいと思っている。
【韓国】韓国のお葬式は合理的?
(現地在住ライター キム・ヒョンジ)
韓国でのお葬式で日本人が一番驚くのは、病院内にお葬式場が有る事だろう。私の日本人夫も初めてお葬式に参列する際、私が場所は病院だと言うと、「その病院で亡くなったのだろうけど、式場は何処?」と聞き直してきた。「だから、○○病院」すると、夫が「悪い冗談は止めなよ」ときたので、「冗談じゃありません。本当に病院でやるの!」それでも夫は納得できずに一人でブツブツ言っていたのである。大きな大学病院ならば、同じ敷地内に別棟で日本みたいな立派なお葬式場が有り。中小規模の病院だと、地下にお葬式場が有る(さすがに入り口は別になっている)。
お葬式場では、まず受付で記帳し、日本で言うお香典を渡す。そして、祭壇へ向かいお線香を上げたり、献花を行う。その後は韓国式のお辞儀だ。床に頭をつけて2回。ご遺族に1礼すると、隣の部屋に通され精進落としの酒席となる。また、熱心な仏教徒で無い限り、普通の家のお葬式では、お坊様が来てお経を唱えたりする事は無い。ご焼香やお辞儀の仕方は違うが、故人を偲ぶ気持ちは日本と同じだ。
【イギリス】個人的に故人を偲ぶイギリスのお葬式
(現地在住ライター バックリー佳菜子)筆者の住むイギリスではお葬式は教会で行われることが多く、香典を渡すという習慣もない。よって香典返しなどもないため、葬儀費用および葬儀後の食事会などの費用のみ家族がすべて負担することが一般的だ。
参列者は黒っぽい服装で参列するが、日本のように決まった喪服というのがあるわけではないので、各々葬儀にふさわしいと思う服装で参列する。
埋葬方法も1960年には35%だった火葬が2012年には75%にまで増えており、土葬が一般的だった頃に比べて火葬が多くなってきている。これは土葬の場合、お墓のスペース=棺のスペースとなり、年々土地価格が高くなってきているイギリスでは、お墓を買えない人が増えたためだと言われている。
お葬式に参列するのは基本的に家族や友人など個人的なつながりがあった人のみという場合が多く、日本のように取引先の家族の葬儀に出席したり電報を打ったりという習慣もない。そういった意味ではイギリスのお葬式はより個人的に故人を偲ぶという意味合いが強いのかもしれない。