9月2日午後に日本の安倍首相がロシアのウラジオストクを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行うことが予定されている。日本が抱える領土問題は、韓国との間の竹島とロシアとの間の北方四島の二つだ(中国・台湾との間の尖閣諸島には領土問題は存在しないとの外務省認識)。戦後70年が経過してもロシアから日本への返還は実現せず、総理大臣が変わる度に北方領土問題への対応が議論され、マスメディアも盛んに報道する。一方ロシアは、戦後、10を超す国との領土問題を抱えていたが、そのほとんどを解決済みであり、残すは日本との北方領土問題や、近年ニュースになったウクライナとのクリミア半島問題等のみとなっている。ロシアは広大であり、領土へのこだわりは日本ほど強く無くても不思議ではない。また、北方四島に関しては実効支配をしている側であり、報道を含めあまり大事にするメリットが無いのではないだろうか。ロシアの一般人は北方領土問題についてどう思っているのか、現地在住ライターがリポートする。

※この記事の内容は現地在住者自身の経験と知見に基づくものであり、HowTravelの主張を代弁するものではありません
北海道と北方領土の地図(KPG_Payless /Shutterstock.com)

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目次

今の段階で北方領土問題に正解があるのか

(現地在住ライター ティムペトゥホフ

北方領土問題の発生から70年以上が経過したが、今でも日露にとって最も重要な課題と言っても過言ではないだろう。2016年5月、世論調査機関「レバダ・センター」に行なった調査の結果によると、北方領土の返還を支持する回答者の割合は7%、返還を支持しないの割合は78%だったとのことだ。ちなみに、ここ20年以上で、北方領土の返還を支持する国民の割合はほとんど変わっていない。北方領土問題が解決すれば、両国はいよいよ平和条約を締結して、日露の関係が新時代に入るはずだが、ロシア政府は国民の意見を無視することができないので、北方領土問題の最終的な解決を延期している。

現在、北方四島と千島列島の人口の数が2万人前後で、ほとんどは幌筵島(ぱらむしるとう)、択捉島(えとろふとう)、国後島(くなしりとう)と色丹島(しこたんとう)という4つの島に住んでいる。ロシアの中部、特にモスクワと比べて、島での生活は厳しく、主な問題は交通インフラ不足だ。地図を見ると、北方領土を裸眼で見られないほど小さいのに、なぜそんなに重要視されているのか。ロシア国民のほとんどは北方領土を第二次世界大戦の末に得た勝利品として見なしているので、返還のシナリオを検討しない。また、ソ連の崩壊の後にロシアは多くの領土を失ってしまったので、領土返還はとても敏感な問題である。

2016年9月2日から3日にかけて、ロシア極東のウラジオストクで東方経済フォーラムが開催されている。そして、安倍首相とプーチン大統領は日露首脳会談を行う。もちろん、その首脳会談で北方領土の問題が提起されると思うが、いつものように解決はまた延期される可能性が高い。もしかすると今の段階では、ロシア政府側でも北方領土の問題の正解が決まっていないかもしれない。

ロシアでは、北方領土問題は知られているが話題にはならない

(現地在住ライター チェルカーソワ・ユーリヤ

実際にロシア人の間で北方領土問題について話題になることはめったにない。ウクライナの話題はよく上がるが、日本の北方四島に関してはメディアでさえあまり取り扱わない。唯一出てくるのは、プーチン大統領が来日するニュースがある時や日本の総理大臣がロシアを訪れる時くらいである。

当然このような問題があることは一般知識として知られており、ある程度の歴史の背景などは学校でも学ぶ。しかしロシアでは、日本関係者や地域的に北方領土に近い所に住んでいる人以外はまず関心がない。また、ウクライナの問題と比較すれば、最近起こったということも含め、ウクライナについて話す場合はやはりシビアで真剣になったり熱く議論をしたりするのに対し、日本の北方領土問題に関しては冗談で触れ、「ロシアもあげればいいのにね、日本の車さえ数千台くれれば」などとふざけた会話で出てくることが多い。

また、基本的にロシア人は日本に好意を持つ人が多いため、「なんでこんな長い間解決されないんだろうね」などと不思議がる人も多い。プーチン大統領が日本好きであることもよく知られている事実であり、ビザ免除協定が結ばれればこの問題も解決されるのではないかと期待するロシア人も少なくない。