アメリカでは、銃乱射事件が度々起きている。教員、生徒15名が亡くなった、高校での銃乱射事件を扱ったマイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン」は世界中の注目を集めた。この事件の犯人はその高校の生徒2人であり、もちろんテロ組織との関連はない。普段接しているクラスメイトや隣人が突如として犯行に及び、銃という殺傷能力の高い武器が簡単に手に入ることで、大量殺人を可能にしてしまう。
事件が発生する度に銃規制に関して議論されているが、現在にいたるまで銃規制には至っていない。また、近年は警察による黒人射殺事件も増加しており、その背景には差別的な思想だけでなく、銃を簡単に手に入れられることから、「やらなければやられる」という恐怖心がある。実際、9月20日にノースカロライナ州で黒人男性が警察官に射殺された事件において、黒人男性が銃を持っていたか否かが大きな争点となっている。
銃を簡単に所持できてしまうアメリカでは、銃による死者が絶えず、銃での死者数は交通事故の死者数とほぼ同数ともいわれる。アメリカ現地に住んでいる住民は銃社会の現状をどのように感じているのだろうか。また、旅行者はどのように気を付ければ良いのか。現地在住ライターがリポートする。
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アメリカ人にとって銃規制問題は永遠のテーマ
(現地在住ライター 長谷川サツキ)銃を規制すべきだと思っているアメリカ人は大勢いる。一方銃は必要だと思っているアメリカ人も大勢いる。オバマ大統領が積極的に取り組んだ銃規制問題は、次期大統領選でも大きな争点となっている。銃乱射事件が後を絶たないにも関わらず、なぜアメリカでは銃規制が進まないのか。これには政治、歴史、お金など様々な要素が複雑に絡み合った事情があるのだ。
アメリカでは自分の身は自分で守る、という考え方が浸透している。銃に対抗するには銃、というわけだ。またアメリカが「合衆国」であることも銃規制が進まない一因となっている。各州は独立して法律を定めることできるので、銃規制の進む州、逆に銃所持の権利を強化する州など銃に対する姿勢はバラバラだ。筆者の住むジョージア州では、今年2016年に大学キャンパス内でも銃の所持を許可する州法が可決寸前までいった。
アメリカでは治安のいい地域と悪い地域が比較的はっきりと分かれており、発砲事件は治安の悪い地域に集中している。事前に旅行先の情報を調べ、危険地区には足を踏み入れないことだ。またそれ以外の場所でも移動は車やタクシーを使用し、歩きでの移動は避けた方がよい。特に夜間に出歩くと事件に巻き込まれる確率も上がる。必要以上に怖がる必要はないものの、アメリカは銃社会であることを念頭に置きトラブルの火種には極力近づかないようにしてほしい。
銃を持つことはアメリカ人に与えられた特権!?
(現地在住ライター オスカー・ヨシナガ)
アメリカと銃は切っても切れない関係だ。いくら銃乱射事件が起ころうとも、多くのアメリカ人は銃を持つことは自分たちの権利だと主張する。諸外国から見たら、さぞかしおかしな国に見える事だろう。
実際の所、銃規制は州によって大きく違う。アメリカの中でも銃規制が一番厳しいのはカリフォルニア州そして次にコネチカット州と続く。これらの州では銃を買う際に厳しい身元調査が行われる。
一方、銃規制が一番弱い州はルイジアナ州、それに続いてミシシッピー州となっている。これらの州ではインターネット上で誰でも簡単に銃を購入することが出来る。このような銃規制が弱い州はもちろん銃による死亡事件が多い州として上位にランクしている。だが、これらの州に住む住民たちは、銃による事件が多いからこそ銃を所持して身を守らなければならない、と考えており、銃犯罪の悪循環に陥っているとも言える。その一方で銃を嫌うアメリカ人達は、銃規制の強い州に引っ越すという事で身を守っている。
全ての州に渡って共通していることは、「銃を持つことは違法ではない」と、いう事である。ここまで銃で溢れる社会になってしまった今、今更銃を禁止してしまうことは大変難しい事のようである。