日本では仕事自体に人生を捧げるという人も多く、家族や友人との予定も「仕事だから」で断れる文化すら存在するほどだ。その一方で華の金曜には週末の到来を大騒ぎで歓迎する等、仕事から解放される喜びを感じている側面もある。他の国では仕事はどのように位置付けられているのだろうか。海外のワークライフバランス事情を現地在住ライターがリポートする。
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【アメリカ】ワークライフバランスを大切にする労働観
(現地在住ライター 長谷川サツキ)アメリカ人は仕事にやりがいを持って取り組んでいる人が多い。ただし仕事のとらえ方は日本人とはだいぶ異なる。会社に忠誠を尽くして働く日本人の働き方は、どちらかといえば会社中心と言えそうだ。一方でアメリカ人は常に自分が中心。自分のために会社があるのだ。そのため仕事内容や報酬に不満があれば上司に交渉したり転職を検討したりする。我慢して働くという考え方があまりなく、自分にふさわしい仕事をしたいと常に考えている。
その一方で、勤務時間が終われば仕事は終了。そこからはプライベートの時間なので残業や付き合いでの飲み会などはほとんどない。仕事にやりがいを感じていても、家族や自分の時間を削ってすることではないという認識を持っているのだ。そのため有給も遠慮なくフルで使い、長期旅行へもよく行く。プライベートの時間に影響が出るような仕事を上司に依頼された場合には、断ることも珍しくはない。
そんなアメリカ人の労働観は、責任感の強い日本人から見ると自分勝手に見えることもある。しかし彼らは決して仕事をないがしろにしているわけではない。仕事と私生活をはっきりと切り離し、双方のバランスをうまく取りながら生活している。仕事を充実させながらも家族との時間を大切にしたい、それがアメリカ人だ。
【イギリス】オンとオフのメリハリがあるイギリスの労働観
(現地在住ライター バックリー佳菜子)
ヨーロッパでの労働というと、仕事のオンとオフをはっきりつけ、休暇が多く残業が少ないため家族とより長い時間を過ごすというイメージを持つ日本人も多いかもしれない。イギリスは欧州の他の国に比べると、法律で決められた休暇は少なめとはいえ、日本に比べると働き方がフレキシブルで、やはり仕事のオンとオフをしっかりつけているという印象がある。
例えば筆者はまだ小さな子供を子育て中のため週に2日は自宅から勤務しており、家庭での生活と仕事を両立できるようサポートされている。筆者だけではなく、子供がいる家庭や遠くから通勤している社員には時短勤務や自宅勤務を勧める企業も多く、そういった意味では家庭と両立してこそ仕事であるという労働観が強いと言える。
しかしながら、その分職場は実力主義で役職によっては成果が出せなければすぐにクビになる可能性も高く、給与も実力によってかなり左右されるという点もある。筆者も自宅勤務が許可されているものの、時には朝5時から仕事をするなど会社からのサポートに見合った成果を出し続けなければいけないため、プレッシャーは多いと言わざるを得ないだろう。
【ブラジル】働くために生きる人、生きるために働く人
(現地在住ライター 増成かおり)サンパウロの人々は忙しい。早起きして子供を学校に送り、満員のバスに乗って職場に向かう。必要なら残業もいとわない。仕事の後で英会話スクールや大学院に通う人もいるし、私の知人は副業に精を出している。リストラは日常茶飯事だから、それに備えるのは当然だ。
この町で「仕事が忙しい」とこぼすと、「仕事があって忙しいのはいいこと」と慰められる。仕事を得てその仕事を続けていくことは大切なことなのだ。だから、家族旅行に行けない理由や友人と食事の約束ができない理由が「仕事があるから」なら納得する他ない。
そんなサンパウロの人をリオの人は「人生の楽しみ方を知らない」と言って笑うという。彼らは、仕事は仕事としてこなしつつも、海沿いの道をジョギングしたり友人と冷たいビールを飲みに行ったりと、楽しむ時間を大切にしている。
ブラジルで人と知り合うと、「何をなさっているんですか?」と聞かれる。これにサンパウロの人は職業を答え、リオデジャネイロの人は週末の過ごし方や趣味を答えるという。さまざまな価値観がこの国に同居している。